美術タイルの最高峰「泰山タイル展」

こんにちは!タイルパークの金谷です。
6月27日~7月2日のあいだ、京都の三条御幸町にある同時代ギャラリーで「泰山タイル展 一枚のタイルがつなぐ、縁。」と題された展覧会が開催されました。滑り込みで観に行くことができたこの展覧会について紹介したいと思います。

泰山タイル展チラシ

時代と人の手のパワーを感じる泰山タイル

ギャラリーのある1928ビルの2階に上がると、すでに入口からお客様が溢れ出そうなほどの賑わいを見せていました。事前の確認不足で着いてから知ったのですが、どうやら訪問したのはトークイベントが行われる日だったため、特別にお客様が多い日だったようです。せっかくの撮影OKにもかかわらず、写真が少ないブログになってしまいますがご容赦ください。

泰山タイル

中へ入ると、目に飛び込んでくるのは手起こしされたパワフルなタイルをびっしりと貼り付けた壁。中でも私が気になったのが「辰砂(しんしゃ)」と呼ばれる赤い釉薬のタイル。色とりどりのタイルの中でも強いインパクトをもって迎えてくれます。

泰山タイル

タイルメーカーとして製造や販売を近くで見ているので、当然赤いタイルを見る機会もありますが、この「辰砂」の赤というのはとても独特で不思議な色です。同じ「赤」でも非常に深みがあって、悪い言い方をすればかなり毒々しく・・・(実際、辰砂とは「水銀」の別名でもあるのだそうです)。
ちなみに陶芸の辰砂釉は「銅」を添加した釉薬を「還元焼成」して発色するという、現代では工場で作るのがいろいろと難しい釉薬です。こうした製造についての話も別の機会でブログに書ければと思っております。

泰山タイル

「泰山タイル」は大正~昭和中期に京都で操業していた「泰山製陶所」で生産されていた装飾タイルを指します。
急速な近代化の波が押し寄せるなか、スペイン風邪の流行を大きなトリガーとし、衛生的な建築資材として急速に拡がりをみせた日本のタイルですが、そのなかで泰山タイルは手作業による生産と意匠性へのこだわりから無二の価値を生み、「美術タイル」などと呼ばれ様々な近代建築を彩りました。

泰山タイル
装飾性の高い役物も

ファインアートなどの「美術品」は、そこにあって鑑賞するだけで価値があります。「工芸品」は使ってこそ価値が生まれるものなので、「美術タイル」は両方どりの「美術工芸品」に分類されるかと思います。
タイルはあくまで建築や空間を彩るパーツの一つ。ギャラリー内では実際にタイルを手で触れて鑑賞することもできますが、1枚1枚のタイルを個別に見ていても真の価値は見えてきません。場内で放映されているムービーに映る、泰山タイルを施工した建築を見ていると「空間の中に居場所を得たタイルはなんてかっこいいんだろう!」と、見え方がぐるっと変わることに驚かされました。

泰山タイル

時代が後押しするもの

柔らかくゆがみのある形状は目地幅に強弱を生み、色むらのある釉薬は力強く側面に流れ落ちてサヤに焼き付いた跡を残し、ぽってりとした色気のある釉薬面にはよく見ると小さな気泡の穴が空いています。
どれも乾式プレス成型の大量生産タイルでは嫌われる要素です。
というより、「嫌う人もいるから、嫌われないように」作った結果、こういった要素は往々にして排除されやすくなります。
しかし、泰山タイルに見られるこれらの要素のなんと魅力的で愛おしいこと。建築業界全体の潮流もこうしたタイルの価値を後押ししたことは、この頃に「泰山タイルっぽいタイル」がたくさん世に生まれたことからもわかります。
時代は変わりましたから、当時と同じ価値観を貫くことはできません。しかし、現代のタイルは大量生産・大量消費。とくにサイクルの早いインテリアにおいては、解体と共に廃棄される運命がそう遠くない未来に必ず待っており、また保存されて後世に残されるほどの価値も正直に言えばありません。
これからもずっとこのままで本当にいいのか、いちメーカーの人間として泰山タイルを見ていると考えさせらるところがありました。

泰山タイル

なお、展覧会にあわせて泰山タイルの公式HPが開設されたそうです。泰山タイルがお好きな方、この記事を読んで興味を持っていただけた方は、ぜひご覧になってみてください。
https://taizantile.com/

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