タイルにタイルに宿る記憶──ハンガリーと日本、ふたつの手仕事のかたち宿る記憶──ハンガリーと日本、ふたつの手仕事のかたち

深い緑釉の陶器の小鉢が写っています。内側には轆轤(ろくろ)の跡が美しく残っており、自然な揺らぎや釉薬の濃淡が味わい深い一品です。和風の趣があり、手仕事の温もりが感じられる器です。

こんにちは。ショールーム営業担当の山中アンナです。
ハンガリー出身の私は、日本で働くようになってから、タイルという素材の奥深さにあらためて魅了されています。今回は、ハンガリーの陶芸文化と、日本で日々触れているタイルについて、感じていることを少しだけお話ししたいと思います。

ハンガリーの陶芸村に息づく暮らしの中のタイル

ハンガリーの田舎には、昔ながらの手作り陶器を作る村がいくつかあります。たとえばホッロークーという世界遺産の村では、民家の外壁やストーブのまわりにカラフルなタイルが飾られていて、どれも手描きの花模様や素朴な模様で彩られています。昔の大家族は、そうした陶器のタイルで囲まれたストーブがありました。冬になるとストーブの前で温まりながら過ごす時間はとても多かったと聞いています。

赤いチューリップの花と緑の葉をモチーフにした、ハンガリー風の装飾的な陶器タイルが並んでいます。民芸的で温かみのあるデザインが特徴で、伝統的な装飾パターンとして壁面やストーブなどに用いられることがあります。
NES Manufaktúra ウェブサイト:https://nesmanufaktura.hu/csempestilusok/tradicionalis/


当時はまだテレビもなく、人々は会話を楽しみながら、静かに夜を過ごしていたそうです。私はそのような生活を実際に経験したことはありませんが、美術館やとても古い家で、そうしたストーブを見かけたことがあります。
そのたびに、昔の人々の手仕事の細やかさや器用さに、いつも驚かされます。

伝統的なハンガリー式の緑釉の陶器製ストーブが写っています。アーチ模様のレリーフが入った艶のあるタイルが全体を覆っており、一部には樹のモチーフが装飾されています。下部は白い土台に支えられており、暖房とインテリアを兼ねた美しい手仕事の作品です。
NES Manufaktúra ウェブサイト:https://nesmanufaktura.hu/csempestilusok/tradicionalis/

日本のタイルが見せてくれた、もう一つの美しさ

日本では、タイルはもっとすっきりとしていて、均整が取れていて、色合いも落ち着いています。ショールームで実物を見るたびに、「こんなにも表情が違うのか」と驚かされます。日本には美濃や信楽など、焼き物の歴史が深い地域があり、そうした背景が今のタイルにも息づいているのだと感じます。

貫入(ひび模様)のある長方形の光沢タイルと、中央に配置された丸型のガラス調モザイクタイルが並んでいます。全体に淡い水色系の色合いで、清涼感のあるデザインです。

素材を超えて、人の記憶にふれるもの

日本では「ゆらぎ」や「ムラ」に味わいを見いだし、ハンガリーでは「均一さ」や「精巧さ」が美として大切にされている。まったく違うようでいて、どちらも人の手のあとがしっかり残っているところに共通点があると思います。

ハンガリーで育った私にとって、タイルはただの素材ではなく、記憶や人のつながりを思い出させてくれるものです。
これからも、そんな気持ちを込めて、お客様にタイルをご紹介していけたらと思います。


この記事の執筆者:山中(TNコーポレーション 東京ショールーム担当 )
ハンガリー出身、2022年に仏教の研究で修士号を取得。2022年秋に来日。日本の文化や日本での生活を学びながら陶器とタイルの良さを味わい中。


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