歴史の息吹を伝える「文化のみち橦木館」

名古屋では江戸から明治、大正の時代にかけて様々な産業が発展し、日本の近代化を推し進めました。名古屋市東区のエリアには、そんな近代化に貢献した当時の起業家たちの旧邸宅や、遺産価値のある古い建物が今でも大切に保存され、時代の息吹をいまに伝えています。
「文化のみち」と呼ばれるこれらのエリア。その中に佇む、近代ロマンに溢れた「橦木館(しゅもくかん)」を訪れてみました。

静かな住宅地に佇む橦木館

訪れたのは、猛烈な残暑が続く9月半ば。いかにも名古屋らしい、車の多い大通りでバスを降りると、日傘の健闘も虚しくたちまち汗が噴き出してきましたが、橦木館を目指して一歩内側の通りへ入ると、公園の木々がつくる木陰がホッとひと息つけさせてくれる閑静な住宅街に変わります。
しばらくすると、海老茶色の屋根瓦がかわいらしい洋館が見えてきました。

橦木館の外観
橦木館の看板

塀にかけられた木の看板には「文化のみち 橦木館」と書かれています。
看板だけ見るとまるで道場のようですが、赤レンガが導く先にはとてもレトロなエントランスがありました。アールデコ調のデザインがおしゃれな建物に向けて、ドキドキしながら進みます。

橦木館正面
赤煉瓦の敷かれたポーチ

玄関に到着すると、扉のまわりには格調高い陶磁器製のタイルが貼られ、ステンドグラスがはめ込まれています。 重厚感があって素敵ですね。

橦木館 洋館の玄関扉まわり
玄関扉周辺

和洋ふたつの顔をもつ邸宅

名古屋市指定有形文化財であるこの「橦木館」は、明治の後半から陶磁器の輸出貿易で大成功をおさめた実業家・井元為三郎(いもと ためさぶろう)の旧邸宅です。
海外へも複数の支社を出すなど、世界を股にかけて活躍した為三郎。大正末期から建築を始めた和の邸宅に、後から洋館部分を増築し、海外からのゲストを招待していたそうです。

建物は現在の正面入り口にあたる洋館と、その奥に続く和館で構成され、広い庭には茶室もあります。まずは洋館の2階に上がってみます。洋館自体はそれほど大きな作りではなく、宿泊者が快適に過ごせるようにトイレ・お風呂・寝室がコンパクトにまとまっています。
なお旧寝室は現在貸室になっており、この日は残念ながら中を見ることはできませんでした。

橦木館 洋館2階のバスルーム
バスルーム

バスルームです。欧米のゲストを意識してか、トイレと浴槽が同じ部屋に配置されています。壁や床、浴槽まわりには、タイルが沢山貼られています。

橦木館 洋館2階娯楽室
娯楽室

隣の娯楽室に入ると、目に飛び込んでくるのが素敵なステンドグラス。広縁越しに差し込む光をうけて、とても美しいです。

広縁

広縁には趣きのある机とロッキングチェア。腰壁に貼られたレンガがとってもおしゃれです。

広縁部分床のタイル

足元を見ると、海老茶色とクリーム色のタイルがヘリンボーンで貼られています。このカラーリング、そういえば建物の外観(壁と屋根)と同じ組み合わせですね。

窓越しに見える和館

部屋の窓からは、奥にある和館が見えています。一階に降りて、次はあの和館を目指します。

和館の縁側
和館の縁側

コンパクトなつくりの洋館とは打って変わって、こちらは庭に沿って長い縁側が続く、日本らしい平屋の建物になっています。奥にペンダントライトが見えますが、ガラス戸に中庭からの光が差し込んでいるため、灯りが無くてもとても明るいです。

和室
和室

ゆったりとした和室が続いています。欄間を見ると、鳳凰(かな?)が彫りこまれています。井元為三郎が酉年生まれだったことから、建物のあちこちに鳥のモチーフが取り入れられているのだそう。

脱衣所
脱衣所の洗面台

こちらは和館側の浴室の脱衣所。床、壁、洗面台の周囲までタイルが張り巡らされています。

橦木館の和館は大正15年(1926年)に竣工したそうですが、日本では1918~1921年にスペイン風邪が大流行したことから、世の中の衛生観念が劇的に高まり、公衆浴場ではタイルなどの衛生的な仕上材を使うことが定められました。それはやがて住宅にも普及し、日本における水まわりのタイル仕上げが一般化していくきっかけとなりました。
この時代の実業家の邸宅は欧米風の建築デザインを取り入れることが多いため、近代的な住宅建築の先駆けとも言える建物が多く、現存するものは大切に保存されていることが多いようです。

シャワーブース
シャワーブース

シャワーブースがあるのはなかなか珍しいですね。こちらも150角くらいのタイルが貼られています。見切りの役物に、各国を飛び回って世界のタイルを見てきた井元のこだわりが見て取れます。

デザインは少し異なりますが、タイルパークの商品で再現するなら、SUW-150SUB-Aがおすすめです。

陶磁器輸出で大成功をおさめた井元為三郎

井元為三郎の肖像画
井元為三郎

洋館2階に飾られている、タバコを手に微笑む男性の肖像画。この方が邸宅のかつての主、井元為三郎です。

名古屋市に生まれた為三郎は、10代の頃から陶磁器業界に入り、23才の若さで陶磁器加工問屋「井元商会」を創業しました。
名古屋には近代以降今なお第一線のブランドであるノリタケやTOTOなどを擁する、セラミックス業界のトップランナー・森村組(現在の森村グループ)があり、陶磁器産業が非常に盛んな地域でした。 そんな名古屋の地で、井元商会はいち早く販路を海外へと拡大して大成功。のちに為三郎は名古屋陶磁器貿易商工同業組合長にも就任し、名古屋陶磁器会館を建てるなど、名古屋のさらなる経済発展に貢献しました。

カップソーサー
盛んに作られたカップソーサーは現在でも大人気。
ノベルティ
ノベルティ(陶製人形)。なんだか祖母の家にあったような気が…。
井元商会の集合写真
本社前で撮影された集合写真

井元商会の人々。二列目中央に立つのが井元為三郎です。この写真を見ると若い人が非常に多く、前列には丁稚奉公と思われる幼い子どもたちが揃いの法被で並んでいます。今の時代には考えられないですが、当時は子どもたちも立派な働き手。若い力に支えられたエネルギッシュな会社だったことが伝わります。

「文化のみち 橦木館」は大人200円、中学生以下だと無料で見学することができます。旧応接室を利用したカフェも併設されており、美しい中庭を眺めながら飲むお茶が格別でした。また時期によっては展覧会やイベントもおこなっているとの事です。

さらに橦木館の近辺には、日本初の女優と呼ばれる川上貞奴(さだやっこ)の旧邸宅「文化のみち 二葉館」や、同時期に活躍していた様々な実業家たちの邸宅が残されており、洋館好きや歴史好きの方には、歩いているだけでも楽しいエリアになっています。名古屋を訪れた際には、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

文化のみち 橦木館
名古屋市東区橦木町2丁目18番地
開館時間 午前10時から午後5時
休館日 月曜日(祝日の場合は直後の平日)、年末年始(12月29日から1月3日)
橦木館ホームページ


この記事の執筆者:金谷(タイルパークスタッフ)
タイルパークの商品情報管理やWEBサイト更新を担当。学生時代に学んだ陶芸の知識を活かし、タイル商品の魅力を発信。


■関連商品のご紹介■

サブウェイ
時代を超えて愛される、ベーシックなタイルの代表格。豊富な役物をうまく組み合わせれば、欧米風のおしゃれなデザインに。

→「サブウェイ」を見る
→この施工例を見る


■おすすめサービス■

無料タイルサンプル請求
無料タイルサンプル請求
カットサービス
カットサービス
Webカタログ一覧
Webカタログ一覧

在庫予約サービス
在庫予約サービス
CADデータ提供サービス
CADデータ提供サービス
よくある質問
よくある質問