釉薬の色の裏の話…その2 「タイルの美しい結晶は、釉薬技術の結晶」

タイルを選ぶとき、まずは「色」、で探すという方が多いと思います。

「タイルの色」=「釉薬(ゆうやく)」
日々タイルをつくっているなかでおきていること、色の開発の舞台裏を、何回かにわたってご紹介しています。

今回は、キラキラとした「結晶」の話。
前回は遠くからでもパッと目につく綺麗な「サーモンピンク」色の話題でしたが、結晶は、言われなければ気付かないようなとても細かなもの…。

前回の記事はこちらから >>>「サーモンピンクとバクテリア」

釉薬の結晶が出たタイル
釉薬の結晶が出たタイル
キラキラした結晶だが、角度によってはあまり見えない奥ゆかしさも…

結晶といえば、思いつくのは雪…ですが、焼き物であるタイルにも、近づいてよく見てみると、とても魅力的な結晶がみえるものがあります。
この結晶を綺麗に出すのは、とても難しいのだとか…


カタログ制作時や、Webサイトの商品の紹介文を書くときに、
「釉薬の結晶による色むらがあります」
「釉薬の結晶による模様がランダムに入ります」

というような説明を入れることがあります。

結晶は、焼き物タイルの特徴の一つであり、そのタイルの魅力としてピックアップするワードです。

先日、釉薬の調合室を訪ねると、メタリックな金色や、ブロンズにところどころ青サビが出たようなエイジング感がある色のタイルが何枚も並んでいました。

ブロンズ色のタイルの試作
結晶を出すには、マンガンや亜鉛といった金属を使ったりするのだとか

これは、「神楽」=かぐら、という荘厳な響きの名前のタイルです。
在庫が少なくなり、追加生産にあたり釉薬の再調整をしている最中でした。

この「神楽」には3つの面状があるのですが、表面に少しだけ窪んだカーブのついた「KOMI-1」(以下:小径面)、これがとくに難しいようで…。

ブロンズ色のタイルの試作
色むらの違いが強く出てしまった試作。下は神楽のスジ面(BYB-1)

結晶の出方に、すごくムラがあります。
出方、と一口に言っても、
結晶の大きさ、出る密集度、出る範囲、出る方向
いろいろあります。それが表にくっきりと出てしまう、つるんとした表面の小径面。

****動画が入ります****

これは試作なので、実際とは違う小さなタイルで仕上がり具合をみたものですが、1枚1枚キラキラ具合が違ってどれも魅力的。でも「神楽」という商品として求めているのは、下の写真のようなこんな色むらのもの。

神楽の小径面の色むらの方向

サーっと流れるような色むら。これを出すためには、釉薬の調合段階での細かな調整はもちろん、釉薬の量や吹き付ける方向、焼成時の温度管理や、窯内での台車のどの位置にのるか、トンネル窯を進んでいくときのタイルが並ぶ向きまでもが関係してくるのだとか。

トンネル窯内でのタイルの向き

まさか、タイルを置く向きまでもが、焼き上がりに影響しているとは…。まさに目からウロコ。

また、きれいな結晶を出すには、急激に冷やしてはダメ、とのこと。
工場の釉薬技術者に尋ねると、「徐冷」(業界での専門用語らしい)と呼ばれる温度帯 = 1000~700℃ があるそう。 高温での焼成後、時間をかけてゆっくりと温度を下げていく冷却方法で、この徐冷によって結晶の成長を促し、色や形、光沢といった表情豊かな 「釉調(ゆうちょう)」 を生み出すことができるということ。

ゆっくり冷まして出てくる「トンネル窯」だからこそできる、時間をかけて生み出される釉薬の結晶は、たくさんの知恵と釉薬技術が詰まった、努力の結晶なのです。


結晶、結晶と言っていますが、「結晶釉」を用いたものと、そうでないものがあります。わたしも、この記事を書くまで実はよくわかっていませんでした(お恥ずかしい限り…)。

結晶のアップ

サンプル棚から、「結晶釉」を使ったタイルで、その結晶がすごく綺麗にでているものを持ってきました。
離れて正面からみただけですと、なかなかわかりにくいですが、近寄って光にあててみると、綺麗な虹色で、星のような形をした模様が見られるものもあります 。

****動画が入ります****

一方、「結晶釉」を使わないでうまれる結晶も。
AIに聞いたところ…

結晶釉:結晶が析出(せきしゅつ)する特性を持つ「釉薬」の一種
結 晶:焼成中に析出する「物質」や「現象」そのもの

と、わかりやすく要約してくれました。

見本台紙

この見本台紙は、下掛けの釉薬(2回に分けて施釉する場合の1回目の下地をつくるもの)や、乳濁材の添加量をかえて、白い斑点の出具合の違いを並べ一覧にしたもの。結晶っぽくなったところ、上のほう、グレー~水色のところを見ていただくとわかりやすいでしょうか。

この白い斑点、焼成中に釉薬が溶け再結晶化してできたもの。意図しないで現れた斑点のことは、「ステイン」と陶芸用語で呼ぶらしいですが、こちらはあえて狙って出した斑点模様。添加物の量を調整し、その出方の違いを見るためのものです。

下掛けの斑点模様
下掛けの斑点模様。結晶釉でなくても結晶のような模様が

****たぶん動画が入れるかも****

あえて結晶釉を用いなくても、結晶のような美しい斑点模様を表現することもできるのですね。

お客様から、
こんな色が欲しい!
これに合わせた色のタイルを作って欲しい!
と、ご要望があれば、さっと提案ができるよう、こんなふうに細かく調整をしたものを用意しています。

「結晶釉」と「結晶」、種類も様々なので一概には言えませんが、結晶釉には煌びやかで華やかな、斑点模様の結晶には優美な印象を持ちました。どちらもたくさんの色を秘めていて、奥深い。


後日、焼き上がって検査場にきていた「神楽」。

****たぶん動画が入れるかも****

ここでは商品として出荷される直前の、ユニット化された状態で縦・横寸法を測り、色をチェック。もちろん色も確認。
色むらの大きなタイルは、特にチェックが難しい。
釉薬技術の結晶が、やっと出荷を迎えます。

****たぶん動画が入れるかも****

トンネル窯の中で冷めていく過程でできる結晶。とてもコントロールの難しい、手のかかる製品。
ですが、上手く焼きあがるとすごく綺麗。
普段は見ることのできない製作背景に思いを馳せながら、ぜひ結晶のみえるタイルを、近くで、ご覧になってみてください。