釉薬の色の裏の話…その3 「黄色や赤のタイルが少ない理由」

タイルを選ぶとき、まずは「色」、で探すという方が多いと思います。

「タイルの色」=「釉薬(ゆうやく)」
焼き物であるタイルの色は、とても細かな釉薬の調合によってうまれます。
このブログでは、日々のタイルづくりでおきている色開発の舞台裏を、何回かにわたってご紹介しています。

前回のお話はこちらから >>>「タイルの美しい結晶は、釉薬技術の結晶」

タイルカラー見本

求めている理想の色と形。
100%これだ!というタイルをみつけるのは、なかなか難しいかと思います。

パラパラとカタログをめくりながらタイルを探していて、

「このグリーンのタイルがいいのだけど、100角サイズはないの?」
「細い20mm幅くらいのボーダーの白、形はこれがいいんだけどツヤがないものが欲しいな…」


というようなことが、多々あるのではないでしょうか…。

日々のお客様からいただくお問合せのなかで、先日
「この写真にあるようなイメージの、黄色のタイルが欲しい」
というお話をいただきました。

いただいた1枚の写真は、ディスプレイのデザインイメージで、とても鮮やかな黄色で装飾されたもの。
タイルパークでは、暖色系のタイルが少なく、ザ・黄色!というようなタイルが残念ながらほとんどありません。

タイルパークのWebサイトでは、サイドメニューから色を絞って商品を検索することができるのですが、イエローとオレンジに絞ってスマホで商品検索してみると、、、

****検索動画が入ります

ブラウンよりのガラスタイルとか(黄色のパーツが含まれている)、ミックスカラーのものがでてきますが、パキっとした黄色はサブウェイタイルとアクセントボーダーのみ。

彩度控えめで落ち着きのあるカラーや、ほどよく幅をもたせたミックスカラーはあわせやすく、様々なシーンで取り入れられニーズも多い。
その一方で、主張の強いはっきりとしたカラーは、使い方が限られてしまうため、ラインナップが少ない…。

赤やオレンジ色のタイル
タイルパークで取り扱っている赤やオレンジ色のタイル(写真奥はガラスタイル)

既存の商品ではご提案できるものがなく、今回は特注で製作することになりました。
送っていただいた1枚の写真と1枚のサンプルを頼りに、黄色のタイルを作っていきます。
黄色といっても、もう少しだけ山吹色寄りでしょうか。少しだけ赤みを帯びた色。でも、かすかにくすみも感じるような。

黄 色 = Y100+M0~10
山吹色 = Y100+M20~25

この間くらいで、少し+ C か?

私はパンフレットなど主に紙媒体の制作をしていたので、どうしても色をCMYKで考えしまいます。印刷で使われる、C=シアン、M=マゼンタ、Y=イエロー、K=ブラック(スミ=墨と呼ぶ)です。

タイルパークの既存商品には山吹色はないのですが、もうちょっとオレンジよりの色ならあります。

既存のオレンジ色のタイル

このタイルの色が、Y100+M40~45ぐらいの色でしょうか。これではだいぶ濃すぎます。

見本カラーチップ

カラーチップにあるこの黄色ともまた少し違います。隣の黄色は明るすぎます。
サブウェイの明るい黄色と、このタイルの間の色、でももうちょっと赤み控えめの黄色寄りを目指します。

カラフルな釉薬の材料

調合を少しずつ変えて、いろんな黄色を作っていきます。
知識豊富な釉薬マイスターが原料の細かな配合を算出、それをもとにカラーブレンダーと呼ばれるスタッフ達が細かく調合、割合を変えて何パターンもつくります。
イエロー、オレンジ系の顔料だけでも、いろんなメーカーさんから取り寄せ、何種類もあります。明るいもの、赤みの強いもの、また土に練り込み用に使うものなど。

スプレーガンを使い施釉したものを、実際に窯で焼き上げ、何枚か「見本焼き」タイルをつくります。

****調合と施釉の動画が入ります

濃いの、薄いの、いろいろでています。

黄色タイルの試作

素地、「きじ」と読みますが、タイルそのものの土の色が、いただいた見本と、通常タイルパークで使用するものとで、だいぶ違っています。この素地の色、陶土の種類も、焼き上がりの発色に大きく影響してきます。

見本との素地の違い
左の見本(赤い土でせっ器質)とタイルパークで通常使う素地とは違う

見本はちょっと温かみのある色の赤っぽい土でした。写真のように並べて比べてみると、全然違う。色も違えば、土に含まれる成分も違います。材質が違えば、焼成温度も異なります。
かける釉薬が同じでも、素地が違えば出来上がりも全く変わってきてしまいます。言い換えると、素地が違えば、釉薬もそれに合わせたものを選んで使わなければならないということ。

なので、そもそもの原料となる土から変えてみたり、下掛け、お化粧でいえばカバー力のある下地クリームでベースを整える、みたいに、目的の色を出すための美しい土台づくり用に「下掛け」の釉薬を工夫してみたり、もしくは「上掛け」を変えてみたり。

あと、かける釉薬の量=「釉薬の厚み」による発色の違いもあります。釉薬が薄すぎると素地が透けたり、土の成分の影響を受けやすく、釉薬の本来の発色がでない場合もあるそう。

さきほどの施釉の動画で、施釉後にタイルの重さを量っているのは、どれだけ施釉したのか、その釉薬の厚みを重さでしっかりと確認するため。
いろんな知識と経験をいかし、希望の色に焼き上がるよう、細かな調整をして近づけていきます。

見本が焼き上がり、2パターンをお客様に提出しました。
タイル下半分の色がないところは、上掛けのツヤ出し用の透明釉だけの状態のもの。質感を出す為の工夫のひとつ。

色味はOK、もう少し色むら感が欲しいとのこと。ハンドメイドタイルのような、ゆらぎのある色むら。
もともといただいていた見本のタイルは、完全なフラットではなく、表面にわずかに凹凸のある面状で手作りの風合いがありました。
そこで、もともとある「ホワイトシリーズ」というタイルの「ディンプル面」の金型を使って成形した素地を使うことにしました。

この面状×さきほどの黄色で、2回目の見本焼きを提出。

2回目に提出した見本焼き

こちらでOKをいただきました!これでやっと本生産に入ります。

****ライン生産時の動画が入ります

上の動画は、実際の生産時のものです。
600tプレス機で成形するところから、施釉されている場面。このタイルの施釉は2回(ものによっては3回の場合もある)、バケツに入った黄色のドロドロが釉薬です。1回目のほうが濃い黄色、二回目がちょっとグレーっぽい感じでした。
さきほども少しふれましたが、今回は上掛け釉薬でツヤや質感を与えています。
決してキレイとは言えない地味な色ですが、これが、焼き上げると美しいツヤを生み出すので、不思議です。

ときどき工場の様子を見学しに行きますが、釉薬はグレーや白っぽいものや、赤茶色が多く、焼き上がりの色とは無関係なイメージでしたが、今回は黄色っぽくて、焼き上がりの色と結びつきます。
それは焼成後の安定した発色を求め、黄色の顔料を多く添加しているから。

伝統的な釉薬においては、暖色系の発色には高度な技術と経験が求められることが多いとのこと。近年では、安全性の高い無機顔料や、焼成条件に左右されにくいタイプの釉薬も開発されているそうで、安定した色を得るために、積極的に取り入れています。

しかし、顔料としての黄色は、他の色に比べて隠蔽力(下地を覆い隠す力)や着色力が低いものが多く、他の色の顔料と混合した場合、ごく少量の他の色によって簡単に色が支配されてしまい、鮮やかな黄色を維持するのが難しいようです。絵の具の黄色に何かを混ぜた感じ?でなんとなく想像がつきます。

高価な色
釉薬マイスターに高い色を教えてもらいました…

暖色系は難しい、そしてさらには原材料も高い!
鮮やかな黄色やオレンジ、赤、きれいな青(瑠璃色)も原料がお高いとのこと…。
しかも、添加量を多くしないとキレイな色が出ないということで、とっても原価が上がってしまいます。

オレンジだけ高い商品
南天」のなかで一番高価なオレンジ色

というわけで、数少ない暖色系の既存商品のなかでも、黄色・オレンジ系だけものすごく高かったりします。
南天(旧品名:プランク)は、ラスター釉をほどこして二度焼きするので、ラスター(パールのような特徴ある光沢と輝き)カラーは値段があがり、なかでもオレンジ(黄色)は、白の3倍以上のお値段になってしまいます…。


さて、納品するタイルが、一昼夜かけてやっと窯からでてきました。

焼き上がった黄色のタイル

ご注文数より多めに作るので(万一の破損などを考慮)、ちょっと何枚かもらってきて並べてみました。

夕方近くの太陽光が入る場所で撮ったので、前出の写真(夜間の室内、蛍光灯の下で撮ったもの)よりかなりオレンジ色っぽく写っていますが…。ディンプル面で光を反射、鮮やかな黄色のタイルが焼き上がりました。

屋外で見た黄色のタイル

こちらはお天気のよい午前中、太陽の下で撮ったものです。

原料となる土、形、面状、そこに色を施し、焼成。長い道のりを経て、やっとタイルができあがります。
無事にお客様のご希望するタイルが焼き上がり、出荷されるときはホッとし、またうれしさもひとしお。。。


最近では、釉薬の調色技術をいかし、お客様のご希望の色のタイルをつくることに力をいれており、特注タイルとしてご注文をお請けしています 。
特注といっても、変わった形や300角以上の大きなタイルなど、金型がないような形状のものは、金型からつくらないといけません。ものによってはできないこともないのですが(大判は不可…)、時間も金額もかなりかかってしまい、すべてをお請けすることは難しい。

タイルパークにある形状
タイルパークにあるいろいろな形状、面状(全てではありません)

まずは、工場に今ある金型を使ってできる形状で、「タイルパーク」の商品ラインナップにはない「色」を、お客さまが「欲しい色」を、調色技術をいかして実現していこうというものです。

THE ONE TILE」と名付けたこのカスタムタイル事業。
GLAZE LAB(釉薬開発)
少ロット生産体制(1㎡から対応可能)
伴走型アシスト(タイルに詳しいスタッフによるサポート)
の3つを軸に、お客さまのご希望に応じた色、形、質感のタイルを実現していきます。

鮮やかな黄色やオレンジ、赤、商品としては少ないだけで、ご希望があればお作りできます(原料が高い分、他の色よりも価格も高くなるのはご了承ください…)。ピンク色のタイルも、最近よくお問い合わせをいただきますよ。
欲しい色がない、この形でこの色が欲しい、 などなど… ぜひ一度、ご相談ください。


カスタムタイル事業「THE ONE TILE」、来週開催予定の「BAMBOO EXPO」でも展示、ご紹介いたします。皆様のご来場をお待ちしております。

BAMBOOEXPO

BAMBOO EXPO 24 開催概要
会期:2025年12月11日(木)、12日(金)
時間:11:00~20:00
会場:東京都立産業貿易センター 浜松町館〈5F〉展示ホール
ブース:□□□□□□□□
https://bamboo-expo.jp/


この記事の執筆者:吉田(タイルパークスタッフ)
カタログやコンテンツ記事などの各種広報物作成を担当。出版・制作会社を経て、転居を機にタイル業界へ。タイルの魅力を模索中。