フランクロイドライトの帝国ホテル NO.5 プロムナード
<プロムナード >
今回はプロムナードです。プロムナードはある意味で帝国ホテルの中心的な空間と言えます。 プロムナードを辞書で引くと「遊歩道」「劇場の休憩用廊下」となっていますが、この空間の主たる目的は次回以降に取り上げるオーディトリウム(劇場)、大饗宴場(バンケットホール)のための進入路及び休憩場所です。しかしライトは単にそれだけに終わらせず、複雑なホテル機能の空間と動線をこのプロムナードで見事に処理しています。
それらの空間とは、客室、大饗宴場(バンケットホール)、劇場(オーディトリウム)、小会食場、キャバレー・レストラン、ロビー、メインダイニングの7つです。この機能的に全く違う7つの空間をプロムナードという媒体空間を介して平面、立面の3次元でいかにも楽しそうにプランニングしているのです。普通の設計者ならこれだけの機能をあれだけの面積に詰め込めるとなると楽しさより苦しさが先立ってしまい、窮屈なプランニングになってしまうでしょう。
<光の柱>
「楽しそうに」とはもちろん私の推測です。ここを訪れた人は誰もが建物内を散策する楽しさを感じると思います。先々回のラウンジの時にも書きましたが、故明石信道教授は「プロムナードの階段は渓谷を渡り歩くように興趣尽きなかった。」と述べておられます。 今はもうこの名建築はなく、そのような体験はできなくなりましたが写真でなにがしかを感じ取って頂ければと思います。 写真はすべてこれまでと同じく、明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」の村井修撮影の写真を拝借しています。
なおプロムナードにつきましては、戦後GHQがこのホテルを宿舎として利用していたのですが、その時彼らは何を思ったのか大谷石の部分を白ペンキで塗ってしまい真に品のないものにしてしまいましたが、決してライトのオリジナルでないことだけ申し添えておきます。幸い他のスペースは塗られなかっただけでも不幸中の幸いとしておきましょう。写真で大谷石が異常に白く写っているはそのためです。
プロムナードのデザインはオーナメントも含めロビーと一転し、斜めの線を基本に貫かれています。ロビーは水平線を基調にしていてゆったりとした落ち着きが感じられましたが、プロムナードではこの斜めの線モチーフが劇場、饗宴場に相応しく華やかで、心踊る雰囲気を醸し出しています。
<ライトの魔法>
プロムナードは余りにも沢山の興趣に富んでおり、限られた文字では説明しきれませんが、どうしても上げなければならないのはプロムナードからバンケットホール(饗宴場)への誘導路でしょう。バンケットへ行く客はプロムナードのメインフロアーで談笑したあと、前頁の写真に見るような、ひと2人しか並べないような比較的狭い階段を上ります。 ライトの設計は空間と空間の繋ぎは必ずと言っていいほど、この様に狭く低い関門を設けています。その関門を抜けた時の劇的な仕掛けがなんとも心地よく、またライトの魔法にかかったと納得してしまいます。
この階段を上り切ると、プロムナードのギャラリーに出ますが、客は今居たプロムナードの長い床面を見下ろしながら、その反対側にあるホワイエへと視線が導かれ、体も自然とホワイエへ上がる階段へ誘導されます。この階段は4段のみですが、幅は今来た階段の倍以上はあり視界が大きく開けるのです。この階段を上がる時、プロムナードを下方に見ながら、上方にホワイエからバンケットへ導く階段を見上げ、これから始まるパーティーへの期待感で、いやが上にも気持ちは高揚してきます。この仕掛けのダイナミックさは私の拙い文章力ではとても表現仕切れません。
なおプロムナード中央部の西側に「パーラー宝の間」と称される部屋がありましたが、その暖炉の壁面が大谷石とアートにより装飾されています。そのアートはひと目でライトとわかるほど、いわゆるライトスタイルで仕上げられています。
壁画とも言えるこのようなライトの作品は珍しいものです。南北両壁面にありますがここに上げた写真は北側のものです。
この稿の最後にプロムナードの北側入り口の写真を取り上げておきます。
ここは現在の日生劇場や東京宝塚劇場のある通りに面したホテルのサブエントランスです。
大きく目立つグリル&プルニエの看板はご愛嬌ですが、御覧のように、エントランスとしてのその堂々たる風格は正面エントランスとは一味違う趣があり圧巻です。
明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井修
筆者:株式会社TNコーポレーション 顧問 横井由和