フランクロイドライトの帝国ホテル NO.6 オーディトリウム
<オーディトリウム>
帝国ホテルを訪れるお客は、先回ご紹介したプロムナードを通りオーディトリウム及びバンケットホールへと導かれます。今回はそのオーディトリウムの方を取り上げます。
オーディトリウムは普通、日本語に訳すと劇場と言うことになりますが、帝国ホテルのこのオーディトリウムは単純に「劇場」と言ってしまうとイメージが少々違ってしまいます。規模としては客席数が656席(階下444席、階上212席)と小劇場程度です。毎回引用させていただいている「旧帝国ホテルの実証的研究」では、「オーディトリウム」、「小オーディトリウム」または「余興場」と言う訳語が使用されています。おそらく創建当時は「余興場」と呼ばれていたものと思われます。
また客席構成では1階左右の桟敷席及び2階左右のバルコニーフロアーが対面になっていることと、舞台装置が一般的な劇場と比べると簡素であり、客席と舞台が隔絶されることなく自然な融合が図られているところなど、プランニングは劇場というよりプロテスタント教会の平面イメージが強いように思えます。
<ユニティー教会>
この帝国ホテルの設計に着手する7年程前の1905年に、有名なユニティー教会が完成していますが、その平面プランを感じさせるものがあります。そんなわけで我々は当時この空間を劇場と呼ばず「オーディトリウム」と原語のままで呼んでいました。
この建物が存在していた昭和40年当時、学生であった私に、この小劇場で演奏を聴くような機会に恵まれませんでしたので、その体験や音響効果について評価ができませんが、明石教授は「このオーディトリウムは井戸の中で音楽を聴くというような落ち着きと楽しみを味わうことができる。舞台に向かって左右の6列の桟敷風の空間は、全く音楽を聴くにふさわしい桟敷であり、このような設計は劇場計画史上最初の試みと思う。」と著書の中で述べておられます。
なるほど経験したこともない者にとっては舞台に対して正対していない客席は不都合に思われますが、「音楽を聴く」ということついては場所の不都合がむしろ長所となり音に集中でき最適な場所かとも思えます。このオーディトリウムのデザインモチーフはプロムナードと違い、水平線を基調としており、ロビーと同じく落ち着いた雰囲気になっています。
<人間重視のヒューマンスケール>
演奏会は体験できませんでしたが、幸いにも行事が行われていない時にはこの小劇場に何度も訪れることができ、いつもながらのライトのスケール感覚の的確さに感じ入り座席に長時間座ってその雰囲気に浸っていたことを思い出します。 どの空間でもライトの設計は人を包み込む落ち着きを感じさせてくれます。それは人間重視のヒューマンスケールと、その空間に相応しい材料装飾の融合から醸し出されるものです。従ってライトの言う有機的建築とはすなわち権威的建築に対する人間的建築とも言えます。
なおこの「オーディトリウム」は次回取り上げる「バンケットホール」と同じく戦災に遭っており戦後かなり改装されております。これまで紹介した3枚の写真は取り壊し前の写真ですが、天井全体の装飾がなくなっている上に、2階バルコニーの大谷石の装飾と腰壁の装飾がなくなっているため創建時とはかなり違ってその豪華さが失われています。
以下の写真は「旧帝国ホテルの実証的研究」から拝借した創建時のものですがその違いを少しでも感じていただければと掲載させていただきました。
筆者:株式会社TNコーポレーション 顧問 横井由和