フランクロイドライトの帝国ホテル NO.7  バンケットホール

<バンケットホール バンケットホール>

これまで帝国ホテルの骨格をなす空間のなかで4つを取り上げました。すなわちロビーラウンジ、メインダイニングルーム、プロムナード、オーディトリウムです。
今回はこの建物の中で最も大きな空間であり、「孔雀の間」の愛称で親しまれてきた帝国ホテルの象徴的空間とも言えるバンケットホールです。
バンケットホールとは日本語で「饗宴場」と訳されています。また愛称の「孔雀の間」の名前の由来は、ホールの中央フロアー4隅にある柱に施された、孔雀をモチーフにした大谷石のオーナメント(縦横2.2mx2.2m、各2対合計8つ取り付けられている)と、天井に描かれていた同じモチーフによる彩色画によるものです。

バンケットホールの東側主賓席方向を見る。2階はオーケストラバルコニー。戦後再建されたもの
        明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井 修

バンケットホールの東側主賓席方向を見る。2階はオーケストラバルコニー。戦後再建されたもの
明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井 修

33mx10mの長方形をクロスに組んだ平面計画になっていて、有効面積は560㎡あります。
クロスしている中央フロアー(10mx10m)の天井高さは約12m強、交差していない部分の天井高は7m強と、これまで見てきた空間と比べかなり大きなスケールとなっています。
収容人数は1000人ですが、南北翼、西翼をティーサロンなど色々な用途に使用することにより、少ない人数でも使い勝手はよかったと言われていました。 東翼のメインフロアーは主賓席、2階はオーケストラバルコニーに使用されていました。
この十字型フロアーの周囲には、高さ2.8mの位置に、幅2.5~2.8mのギャラリーが回廊のように巡らされ、メインフロアーを見下ろせるようになっていました。
このギャラリーは自由度が高く各種の用途に使用されていたようです。


<孔雀の間>

雀の間の由来となった大谷石による孔雀のオーナメント。幸いにも孔雀のオーナメントは残った。
        明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より  撮影 村井修

雀の間の由来となった大谷石による孔雀のオーナメント。幸いにも孔雀のオーナメントは残った。
明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より  撮影 村井修

先回にも申し上げましたように、この孔雀の間は大戦で罹災しており、ギャラリーから天井にかけては完全に焼け落ちてしまいました。戦後復興はされましたが、図面はともかく、経済的な事情もあり、オリジナルの状態には残念ながら再現されていませんでした。
従ってライトのオリジナル設計を尊重し、このホールの内部写真はオーケストラバルコニーを見る東側の写真と、孔雀のオーナメントの写真、及びこの後述べるギャラリ先端部レリーフの写真を除き、敢えて取り壊し時(昭和42年)の写真は掲載しておりません。
幸い明石教授著「旧帝国ホテルの実証的研究」に創建時の写真がいくつか掲載されていますので、その写真を拝借して掲載させていただきました。

創建時のバンケットホール内部
            左側の明かりが差している部分は北ウイングの窓面

創建時のバンケットホール内部
左側の明かりが差している部分は北ウイングの窓面

バンケットホール創建時の天井部分。
            円をモチーフにした孔雀の彫刻と天井画の関連性がよくわかる。
            左が西ウイング、右が北ウイングと思われる。
            明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より

バンケットホール創建時の天井部分。
円をモチーフにした孔雀の彫刻と天井画の関連性がよくわかる。
左が西ウイング、右が北ウイングと思われる。
明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より


<モチーフ>

これまで紹介してきた空間の中で、ロビー、オーディトリウムは水平線・長方形を基調として、プロムナードは斜めの線・菱形を基調として、メインダイニングはその中間を基調としてデザインされています。
それでは孔雀の間のモチーフは何でしょうか。私は残念ながらこのホールには1,2回しか入る機会に恵まれず、再建された高い天井の線しか印象に残っていなかったためライトの目指したものが判らずじまいでした。
今回改めて、「帝国ホテルの実証的研究」を読み返し、明石教授の次のような記述を発見しました。
「取り壊して原形はなかったが、饗宴場の天井の下がり壁に円の造形があった。ライトは、饗宴場だから華やかにしようと試みて造形したのであろうが、円は難しい。」 さらに「饗宴場のギャラリーの先端部にあって、繰り返し連続的につながっているレリーフで日本瓦を想起せしむる。」と続きます(P.308)。
そうですライトの造形で円は忘れてならないものです。これまで見てきた場所に、円や球体を用いた大谷石のオブジェがいくつか見られました。しかしそれらは小さなものでした。明石教授も述べておられるように円は難しい。しかし究極の造形でもあります。
ライトはこのプロジェクトの最も華やかな空間のバンケットホールを、究極の造形である円を基調として、しかも大きな円を用いてデザインすべく考えたと思われます。そしてこれまで抑え気味にしていた色彩をここで思う存分発揮したことでしょう。

バンケットホール内部、2階レベルにメインフロアーを見下ろすギャラリーが周回している。

バンケットホール内部、2階レベルにメインフロアーを見下ろすギャラリーが周回している。

ギャラリー先端部の日本瓦を想起させるレリーフ彫刻
            明石信道著 「旧帝国ホテルの実証的研究」より

ギャラリー先端部の日本瓦を想起させるレリーフ彫刻 明石信道著 「旧帝国ホテルの実証的研究」より

バンケットホール南東部上部外壁
            明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井修

バンケットホール南東部上部外壁 明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井修

バンケットホール南東部外壁詳細
            明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井 修

バンケットホール南東部外壁詳細
明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より 撮影 村井 修

筆者:株式会社TNコーポレーション 顧問 横井由和