フランクロイドライトの帝国ホテル NO.4 メインダイニングルーム
<メインダイニングルーム>
ご承知のように現在この名建築はロビー部分を除いて存在しません。今回以降、御紹介する写真はすべて明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」からのコピーになりますのでご承知置き下さい。
ロビーのメインフロアーと同レベルで、ロビー東側にメインダイニングの大空間が広がっています。 面積は前々稿でも述べたようにエントランスの池と同じ12mx24m、サービスヤード、側廊も含めればその倍の24m四方あります。高さはロビーのギャラリー天井と同じで5.5mです。ロビーからメインダイニングに入る場所にライトはある仕掛けを施しています。ロビーの稿のロビー北東部の写真を見てください。判りやすいように明治村の帝国ホテルの写真も下に掲載しました。光の柱の横に大谷石のみで装飾されている壁のような柱が左右にあります。ロビーのなかでこの柱の装飾はデザインモチーフが他と全く違います。また構造的に見ても光柱に近く必ずしもこの位置に柱が必要とは思われません。
ではなぜライトはこの位置にこの柱を置いたのか。メインダイニングの写真を見てください。実はこの柱のオーナメントはこれから入るメインダイニングの柱のオーナメントと同じモチーフでデザインされています。
そうですこのロビー東面のこの2本の大谷石の柱はメインダイニング入り口を示すシンボリックサインなのです。と同時にメインダイニングの空間をさりげなくロビーに入り込ませ、訪れる人にメインダイニングを暗示させる空間構成にもなっていてその処理は見事です。
<ロビーとメインダイニングは空間構成からして一体>
ロビーの稿でロビーとメインダイニングは空間構成からして一体のものであると書きましたが、その意味の一つがこれです。
帝国ホテルには恐ろしいほど多種多 様な装飾に囲まれているため、つい見過ごしがちですが、ライトは当然ながら各空間のオーナメントにそれぞれテーマを持ってデザインしています。
例えばロビーのような人々の待ち合わせや休憩場所としてのくつろぎの空間は光柱のオーナメントに見られるような矩形を主体にした垂直線と水平線で全体を統一して落ち着いた安心感を演出しています。
一方これから述べるメインダイニング、プロムナード、バンケットホールのような会食やパーティーに使用する空間は菱形のような斜線を主体にデザインして気分を高揚させる華やかさを演出しています。それらを見つけるのもライト建築を訪れる楽しみでもあります。
さてロビーからシンボリックサインの柱を左右に見てメインダイニングに入りましょう。
この部屋に入ってまず目に飛び込むものは何と言っても左右に5本ずつ並ぶ柱、特にその柱と梁にしつらえられた翼の様な方杖です。
この華やかさはいやが上にもこれから始まる会食に向けて気分を盛り上げることは必定です。
さらにこの方杖のオーナメントを仔細に見ると、デザインの豪華さもさることながら、よくもこれほどの図面を書き、よくもこれほど巧緻に彫り、よくもこれほど大きな石組みとRCとの接合を設計し、かつ施工したものだと言う驚きです。
技術の継承と言う意味でもこのメインダイニングを明治村に移設されなかったのはかえすがえす残念でしようがありません。
<生き様>
ライトはこのメインダイニングで興味あることを行っています。
写真に見るように、大梁の下部に装飾レンガを用いてダウンライト方式の照明を設計しているのです。 今でこそダウンライトはよく使われていますが、当時はまだシャンデリアに代表されるように照明器具を表に出すことが主流でした。 おそらくこの様な照明方式を取り入れたのは初めてでないでしょうか。
写真がその装飾レンガですが、ポンイント照明としてこの建物の各所で使用されています。 鋳込み成形で作られていますが、実に良く出来ており、当時製造に携わった職人の苦労が偲ばれます。
筆者:株式会社TNコーポレーション 顧問 横井由和