フランクロイドライトの帝国ホテル NO.3 ラウンジ
<ラウンジ>
ラウンジはロビー空間の一部とも言えますが、外観上からも、内部空間からもロビーとは違う魅力と役割を持った空間です。
ラウンジは正面から見て左右対称に配置されており、外観にゆったりとした気品と落ち着きを与えています。 記録によればライトと日本文化との具体的な最初の出会いは1893年に開かれたシカゴ博で展示された「鳳凰殿」の1/2模型であったと言われています。 ライト26歳のときです。
この時ライトが受けた強い印象が20年後の帝国ホテルの設計において少なからぬ影響を与えたことは確かと思われます。 鳳凰殿の左右対称デザインモチーフに似ているからです。
図面上では北側が婦人用ラウンジ、南側が紳士用ラウンジとなっていますが実際はどのように運用されていたか定かではありません。
さて内部へ入ってみましょう。ロビーの北西角及び南西角に仕込まれたアルコーブを見ながら階段を数段昇ったところにラウンジがあります。
ここからさらに7段の階段を昇ればティーバルコニーへ、さらに3段昇ればギャラリーへと至ります。 すなわちラウンジはロビーの上層階に至る踊り場的な階層にあるわけです。
この異なった床レベルを連続的に繋げる空間処理の巧みさはライトの得意とするところで、 回遊式庭園を歩くような自然な流れがなんとも魅力的で何度訪れても飽くことがありません。
後に述べるプロムナードからバンケットホールへ至るルートについて明石教授は、「さしずめ渓谷を散策する楽しさがある。」と述べておられますが、 このラウンジ周辺でもそのような印象があります。
<カーテンウォール工法>
さらにこのラウンジには技術的にも新しい試みがなされていたと明石教授は「旧帝国ホテルの実証的研究」で述べておられます。 まだ鉄筋コンクリートの建築技術がようやく緒についたばかりのこの時期に、今日のカーテンウォール工法の考え方がすでに取り入れられていたのです。
写真で見て判るように、壁面上段のガラス面の向こうに柱が透けて見えます。 すなわち木製のサッシに嵌め込まれたガラスの壁面が構造体の柱の内側にセットされているのです。 現代のカーテンウォールは、壁面を構造体の外側にセットするのが一般的ですが内、外の違いはあっても考え方は同じです。 ことに帝国ホテル全体では壁構造の制約から、比較的開口部を抑えたデザインが採られているだけにこのラウンジのガラス面処理は際立っています。 営業中は部分的にカーテンに隠れていた為、この壁面の真実に気付いた人は少なかったと思われます。 実際明石教授も取り壊し時にこのことを発見したと書いておられます。
今ひとつこのラウンジの写真で他とは違った所があることに気付きませんか。 写真中央の大谷石の壁面が、全く装飾されずに無垢で仕上られていることです。 最初にここを訪れた時、この空間が他とは違う雰囲気をたたえていると感じたものですが、 その理由の一つがこの無垢の大谷石であることに気付くのは何回目の訪問だったでしょうか。 この設計意図は色々推測できますが、真実はライトに聞いて見なければ判りません。 帝国ホテルを装飾過剰だと言う人もありますが、ライトはいたずらに装飾に走るのではなく その空間に最も相応しいと思う処理をしていることがこのことからも判ります。
筆者:株式会社TNコーポレーション 顧問 横井由和