フランクロイドライトの帝国ホテル NO.10 レンガの詳細その1
<レンガ>
帝国ホテルを語るに欠かせないものにレンガがあります。これまでも折にふれレンガを取り上げてきましたが、そのレンガについて今回と次回の2回に分けて少し詳しく取り上げてみます。
帝国ホテルの外内観を特徴づけるものはレンガと大谷石です。その他に使われているものでは階段の大谷石を支えている鋳鉄と軒ルーバーに使用されている銅がありますがルーバーはよほど気をつけてみないと判りません。
大谷石は非常に加工性がよく、ライトの多彩なデザインに適した石材と言えます。ただ内装では成功でしたが外装に使用したことはその耐久性から見て失敗としか言いようがありません。
建物の寿命が半世紀足らずで終えなければならなかった原因のひとつがこの大谷石でした。最もこの当時の材料学ではそれを見分けるだけの資料がなかったであろうことは容易に想像がつきますが、それにしても不幸でした。
しかしライトの設計手法からすれば、内装と外装で違う材料を使用することは考えられず、もし大谷石が外装では無理と判断されれば、外内装に使われたあの素晴らしい大谷石のオーナメントは日の目を見ることは無かったでしょう。
その点今回のテーマのレンガは材料としてパーフェクトでした。以前にも書きました様にすべて国産で、現在のINAXの前身である愛知県常滑市の工場で作られました。
種類は大きく分けて、メインのレンガであるたてにひっかき溝を入れた「スクラッチレンガ」1種類とその派生である装飾レンガが2種類(「市松模様レンガ」と「千鳥模様レンガ」)、そして通常の方形レンガとは違う「装飾異型レンガ」が2種類(「装飾テラコッタ」と「照明テラコッタ」)の計5種類となります。
以下にそれらの写真を掲載しますがすべてこれまでと同じく明石信道著「旧帝国ホテルの実証的研究」より拝借しております。
なお記述している寸法は実測による寸法です。ばらつきがありますので約としました。 レンガ寸法はばらついていても目地で調整し、水平方向は1フィート(305mm)のモジュール、高さ方向は目地込みで70mmのモジュールとなっています。
そしてスクラッチレンガと2種類の装飾レンガにはそれぞれ4種類の長さとコーナーの役物が1種類、装飾レンガの千鳥レンガにはすかしを入れたものと入れてないものの2種類、装飾テラコッタには平物1種類と、右型と左型の半マス役物2種類及びコーナー用役物があります。
スクラッチレンガと装飾レンガは同じ材質で、色は黄色、明石教授は日本の漆喰壁に見られる「黄大津色」と言っておられます。但し取り壊し直前の昭和40年代では外装レンガのオリジナルの黄色は排気ガスにまみれて濃い茶色に見えました。当時はどの国も、自動車、工場も含め排気ガス規制はありませんでしたから大気汚染がひどく、建物は汚れるがままでした。 先回掲載した建物全景写真に煙突から出る煙が写っていましたがまさしくそれを象徴しています。
レンガの寸法は高さが52~55mm、奥行き46~52mm、長さは105、210、315、420mmの4種類です。メインの長さ寸法は315mmですがこれは1フィートのモジュールから来たものと思われます。
また吸水率は7%程度、圧縮強度は130kg/平方cmでしたから現在の建築用レンガと比べるとかなり弱いものでした。(参考:レンガの圧縮強度JIS規格は300kgf/平方cm、タイルには圧縮強度のJIS規格はありませんが通常の床タイルを測定してみると1100kg/平方cm以上あります) 尤もライトはレンガを構造材としては使っておらず、鉄筋コンクリートの型枠兼仕上材として使っていますから、この程度の強度でも問題はありませんでした。
目地幅については縦目地はねむり目地、横目地は約15mmと比較的広く、デザイン意図としては横方向の線を強調しています。また高さ方向のモジュール寸法はレンガが55mmですから70mmということになります。このことは建物の高さを計算するにレンガの数を数えればよいので非常に便利でした。目地の沈みは5mm程度でした。 またレンガは外内装に使っていますが、内装では15mmの目地に金粉を塗布しています。レンガと金粉の組合せとは異様な感じを受けるかも知れませんが、黄色のレンガと金色目地のコンビネーションが不思議とけばけばしくなく、落ち着いた質感を出しています。
一方装飾異型レンガは鋳込み成形のため、原料粒度が細かく不純物も少ないようで、滑らかな肌合いを持っていました。色もやや茶色味が多い感じでした。これらのレンガは照明もしくは自然光という光を意識させる場所で使用されています。寸法は装飾テラコッタが210x205mm(高さ)で高さ方向がスクラッチレンガ3枚分、照明テラコッタが125x125x65mm(奥行)で高さ方向がスクラッチレンガ2枚分の寸法です。(以下次号)
筆者:株式会社TNコーポレーション 顧問 横井由和