タイルデザインの幅を広げる立役者、「釉薬」
「釉薬(ゆうやく)」とは、やきものをコーティングするガラス質の膜のことで、多くのやきものタイルの表面に施されています。
元々やきものは土を成形・乾燥させた後、そのまま火にくべて焼き固められていました。ところが、土器の焼成に窯が使われ始めるようになると、舞い上がった灰が飛んで行かず焼成中の器に降りかかり、冷え固まってガラス質のようになることを発見(自然釉)。これが釉薬のはじまりで、日本では奈良時代頃から人の手によって釉薬(灰)を乗せた陶器が作られはじめ、その後様々な進化をみせることとなりました。
釉薬には様々な役割がある
土を固めて焼くだけでは満足できず、より高みを目指した人類。長い長い試行錯誤の歴史をもつ釉薬には、様々な役割が生まれます。
1.耐久性をアップさせる
ガラスの膜でコーティングすることで、施釉陶器は様々なメリットを手に入れます。釉薬面から水が内部に侵入しにくくなって耐久性があがり、お手入れもしやすくなるので長く使い続けることができます。身のまわりにあるやきものの器を見ていただくと、ほとんどは土がむき出しの状態ではなく、釉薬でコーティングされていると思います。
2.デザインを与える
釉薬に含まれる成分は、焼成による化学変化で様々な色に姿を変えます。たとえば基礎的な調合の釉薬に酸化鉄を添加すれば焼成後に黄みがかったり、銅を添加すれば織部のような緑色になるなど。時には絵の具のように顔料を混ぜて発色を生み出す場合もあります。
また調合内容によって釉薬が溶け出す温度を調節したり、炎の当て方や冷却スピードによって結晶を生じさせ模様のように見せるなど、質感や模様にも変化を与えることができるため、その可能性は無限大。陶芸家の中には釉薬沼にハマって、作陶よりも釉薬の調合試験に没頭する人もいるほど奥深い世界です。
タイルでよく使われる釉薬の種類
タイルパークで販売中の商品にもよく見られる4種類の釉薬を紹介します。
透明釉
焼成後に無色透明となるベーシックなツヤありの釉薬です。タイルの素地(きじ。土のこと)の色の影響を受け、またベーシックな調合から成分比率を変えることでほんのり色みをつけたり、調合内容によっては素地の凹部分に流れ込んで濃淡を生んだりもします。タイルの業界では「ブライト」と呼ばれることも。
フチなど薄づきの部分は、素地の色がかなりハッキリ見えるものもある。
マット釉
焼成中に釉薬の結晶が表面を覆ったり、半融けになるように調合された、ツヤのない不透明な釉薬です。透明釉と違って素地の色の影響を受けないため、色のブレが出にくいのが特徴です。じつは釉薬の表面には凹凸があって、これが光を乱反射させてツヤ消しに見せているのですが、この凹凸は目には見えないぐらい細かいので、ほとんどはツヤのある釉薬と同じ感覚で使用できます。
ラスター釉
てりてりとした虹彩のような輝きが特徴の釉薬です。他の釉薬とは違い700度程度の低温で焼き付けるため、一度1200度以上でしっかり焼き固めたタイルに、上から施釉してもう一度低温焼成して作られています。独特なツヤ感がとても美しいですが、紫外線や酸で釉薬が劣化してしまうことがあるので、使用場所には注意が必要です。
貫入(かんにゅう)釉
焼成前はタイル素地にも釉薬にも水分が若干含まれるため、焼成で水分を完全に失うと少し小さくなります。この時生じる素地と釉薬との収縮率の差によって焼成後に現れたヒビを貫入と呼び、これを意図的に大きく入るように調合したのが貫入釉です。器でも鑑賞対象として昔から好まれ、時間の経過でも少しずつヒビが増えることがあり、変化を楽しむこともできる釉薬です。
ただしタイル表面にまで現れているヒビなので、当然細かい粒子は隙間から入り込んでしまい、時間とともに汚れの原因にもなってしまいます。そのため、一般的には浴室などの水がかりが激しい場所ではあまり使用されません。
釉薬からオススメするタイル
透明釉 ー透け感によって軽やかな雰囲気に
睡蓮-SQ
スタンダードなサイズの2種類の四角形と、見切りやアクセントに使用できるボーダータイル。表面には水をたたえたようになめらかで透け感のある釉薬が施され、静かな安らぎを与えます。
マット釉 ーツヤ消しのスッキリとした見た目
ニューヨーク-ヘキサゴン
思わず触れていたくなる心地よい手触りと、ツヤ消しならではのスッキリとした見た目が特徴のモダンなヘキサゴンタイル。約5cmと約10cmの2種類のサイズで、それぞれ白と黒を用意。
(※サイズごとに違うマット釉が使われています)
ラスター釉 -華やかな輝きが魅力
ガク(楽)-プレーン
ラスター釉の輝きと、変化に富んだ表面の形状が、照明効果を最大にまで高めて豪華な空間を演出。チャペルやブティック、バーなど、きらきらと華やかな輝きを求める場所におすすめ。
貫入釉 -意匠の一部になる大胆なクラック
魁(かい)
素地に彫りこまれたマジョリカ風の模様に、透明感のある繊細な釉薬の濃淡が混ざり合うデザインタイル。近づいて見ると全体に貫入のクラックが入っており、クラシカルな風合いに。
色や質感は実物でないと分からない
ここまで紹介した以外にも、タイルパークで販売しているタイルでは様々な種類の釉薬が使用されています。こまかな質感や風合いの差は写真では再現できず、手にとってみないと分からない情報がたくさんあります。
カタログやホームページの写真だけで決めてしまい、思っていた手触りやツヤの具合と違ったという失敗談も少なくありません。タイルを検討の際は必ずタイルサンプルをご確認ください。
サンプルの請求方法はこちらをチェック
また釉薬は化学変化によって色や風合いを生んでいるため、生産ロット毎に誤差が生じやすいという特性もあるので注意が必要です。生産ロットの誤差についてはこちらのコラムもぜひ併せてお読みください。
この記事の執筆者:金谷(タイルパークスタッフ)
タイルパークの商品情報管理やWEBサイト更新を担当。学生時代に学んだ陶芸の知識を活かし、タイル商品の魅力を発信。
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